仮想通貨では「ステーブルコイン」というものがありあす。
値動きが激しい仮想通貨の中で法定通貨と連動させて安定性を生み出すために作られたものです。
この記事ではステーブルコインについて解説します。
ステーブルコインとは
ステーブルコインとは、価値を安定化させるため法律によって「強制通用力」をもつ米ドルなどの法定通貨や金の価格に連動するよう設計された暗号資産(仮想通貨)の一種のことです。
そもそもステーブル(stable)の意味は「安定した」「変動のない」です。
仮想通貨取引は2015年以降、ほぼゼロから数百億ドル/日の規模まで急成長しましたが、一方で他の投資商品と比べ、価格変動が大きい(ボラティリティが高い)という問題があります。
その問題を解決するために、ステーブルコインが登場しました。
ステーブルコインの特徴
ステーブルコインの特徴には以下のようなものがあります。
ボラティリティが小さい
仮想通貨の特徴の1つはボラティリティ(価格変動の度合い)が大きく価格が安定しないことです。
ステーブルコインは他の仮想通貨と比べるとはるかに価格が安定しています。
たとえば、ドルと連動しているテザー(USDT)はドルと連動するように設計された仮想通貨であるため、1ドル=1USDTの前後で価格が推移します。
送金が容易
2つ目の特徴は送金が容易であることです。
通常、外国に送金するときは国内銀行から海外の銀行に送金され、相手の口座に振り込まれます。
その間に手数料なども必要で、受付時間も限られています。
仮想通貨であれば、銀行を介さずとも相手のウォレットに直接送金できるので手数料の点でも、送金にかかる時間という面で見ても利便性が高いといえます。
ステーブルコインのメリット
ステーブルコインのメリットは以下になります。
暴落するリスクが低い
1つ目のメリットは暴落するリスクが低いことです。
ステーブルコインは米ドルや日本円、金といった比較的安定した資産を裏付けとして発行されているため、他の仮想通貨よりも暴落リスクが低いという大きなメリットがあります。
ただし、米ドルや日本円のような法定通貨と連動している場合は法定通貨の値下がりによりステーブルコインの価値が下落する可能性があるので注意しましょう。
低コストで送金できる
2つ目のメリットは低コストで送金できることです。
たとえば、三井住友銀行から海外の銀行に1万ドルを送金する場合、送金手数料が3,500円、関係銀行手数料が2,500円、手数料の一種であるリフティングチャージ料が2,500円で合計で8,500円もかかります。
それに対し、国内暗号資産取引所から海外取引所などに送金する際の手数料は0,005イーサリアム(1,500円前後)と格安です。
法定通貨の代わりとして利用できる
3つ目のメリットは法定通貨の代わりとして利用できることです。
たとえば、米ドルに連動しているステーブルコインを入手すると米ドルを手に入れたのと同じ効果があります。
紙幣の価値が不安定な国の人々が米ドルを手に入れるかわりに米ドルと連動したステーブルコインを入手することで、自己資金の逃避先としても利用できます。
少額から仮想通貨を取引できるbitFlyerのような暗号資産取引所でつみたて投資を行い、たまった仮想通貨を海外に送金してステーブルコインを入手し、外貨預金のように貯蓄することも可能です。
ステーブルコインの種類
ステーブルコインは以下の種類があります。
法定通貨担保型
法定通貨担保型ステーブルコインとは、その名の通り、米ドルやユーロなどの法定通貨を価値の裏付けとすることにより、その価値を一定に保っているステーブルコインです。一般的にこの種のステーブルコインは、1:1の比率でコインが法定通貨にペッグされています。
例えばテザー(USDT)は、「1USDT≒1USD」を目指して設計されており、1USDにつき1USDTがテザー社から発行されることになります。
おおよその仕組みとしては、金本位制に類似しています。
金本位制では、金を担保に紙幣の価値を保証していましたが、ステーブルコインの場合、法定通貨を担保に各コインの価値が保証されています。また金本位制において、紙幣の発行元である各国の中央銀行が金を金庫に保管しているのと同様に、ステーブルコインでも、各コインの発行または管理主体が、法定通貨を保管しています。
法定通貨担保型ステーブルコインを使用するメリットには、以下のようなものがあります。
- 直接法定通貨にペッグされているため、他の種類よりも価格が安定
- 資金効率が良い
- スマートコントラクト・リスクが少ない
※スマートコントラクト・リスクとは
スマートコントラクトとは、あらかじめプログラムされた条件に応じて、自動的に契約を執行する仕組みを指す。スマートコントラクト・リスクとは、スマートコントラクトを構成するコードにある不備やバグといった脆弱性を原因に資産を失うリスクの総称。
一方、法定通貨担保型ステーブルコインのデメリットとしては、以下が指摘されています。
- 透明性が低いため、発行元が十分な額の法定通貨を保有していない可能性もある
- 資産凍結やブラックリスト入りなど、中央集権的リスクやカウンターパーティ・リスクが高い
- 規制リスクが高い
仮想通貨担保型
仮想通貨担保型のステーブルコインでは、一種以上の仮想通貨を担保に価値を裏付けることにより、コインの価値を一定に保っています。基本的にこのタイプのステーブルコインは、「過剰担保(Overcollateralization)」に頼って発行されています。
過剰担保とは、あるステーブルコインの発行に、そのコインが持つ以上の価値を裏付ける行為を指しています。
仮想通貨担保型ステーブルコインを使用するメリットには、以下のようなものがあります。
- 中央集権型機関に依存せずに分散型(Decentralized)のステーブルコイン発行が可能なため、透明性が高く検閲耐性がある
- トラストレス(第三者や発行機関を信頼する必要がない)
- 発行から利用まで全てがオンチェーンで完結
- ブロックチェーン外の管理者が存在しないため、自身の資産の主権を掌握できる
規制リスクが低い
一方で、仮想通貨担保型ステーブルコインにはデメリットもあります。
- 過剰担保を要するので資金効率が悪い
- 法定通貨担保型よりも価格が安定しづらい
- 担保資産の価値が急落した場合、清算(担保没収)リスクがある
- スマートコントラクト・リスクが高い
無担保型
無担保型ステーブルコインとは、先述の二つとは異なり、価値の裏付けに法定通貨または仮想通貨の担保を必要としないステーブルコインを指しています。
この種のステーブルコインは、担保を必要としない代わりに、市場の需給に応じてコイン供給量をアルゴリズムで調整することにより、その価値を一定に保っています。
コインの価値が目標価格を上回っている場合、コインの供給量を自動的に増やし1コインあたりの価値を減少させます。一方、コインの価値が目標価格を下回っている場合には、反対にバーン(焼却)などを介してコインの供給量を減らします。
これらのように1コインあたりの価値をコントロールすることにより、価値を一定範囲内に保っています。
この基本構造は、各国の中央銀行がインフレまたはデフレ抑制のために、紙幣発行量を調節する仕組みと同じになっています。
中央銀行ではこれを手動で行っていますが、無担保型ステーブルコインのプロトコルでは、このプロセスがアルゴリズムに沿って自動化されています。そのため、「シニョリッジ(通貨発行益)型ステーブルコイン」や、「アルゴリズム型ステーブルコイン」と呼ばれることもあります。
無担保型ステーブルコインのメリットには、以下があります。
- 担保を必要としないため、法定通貨担保型のような中央集権型リスクがない上に、仮想
- 貨担保型よりも資金効率が良い
- アルゴリズム含め全てがブロックチェーン上に存在しているため、透明性が高い
無担保型ステーブルコインのデメリットとしては、以下が主に指摘されています。
- スマートコントラクト・リスクが高い
- 価格維持が難しく、ペッグが崩壊しているプロジェクトも多い
- 関連:大規模資金調達を行った新ステーブルコイン「Fei」、想定外の事態で価格急落
おもなステーブルコイン
主なステーブルコインには以下のようなものがあります。
テザー(USDT)
テザーは米ドルと連動しているステーブルコインで、ビットコイン、イーサリアムに次ぐ時価総額の仮想通貨です。
価格は非常に安定していますが、ボラティリティが低く投機対象として不向きです。
スイスにあるルガーノ市がビットコインなどとともにテザーも法定通貨として扱うことを発表したため注目を集めました。
ダイ(DAI)
DAIはMakerDAOが発行する仮想通貨で、米ドルと連動するよう設計されたステーブルコインです。
イーサリアムブロックチェーンを利用し、ERC20に準拠しています。
そのため、イーサリアムに関連するサービスなどを利用しやすいという長所を持ちます。
USDコイン(USDC)
USDコインはCentre Consortiumが発行する仮想通貨で、米ドルと連動するよう設計されたステーブルコインです。
DAIと同じくイーサリアムのブロックチェーンを利用し、ERC20に準拠しています。
テザーと同じく、1ドル=1USDCとなるようコントロールされ、取引量も2022年5月10日段階で5位です。
ステーブルコインの今後の見通し
ステーブルコインの今後の見通しは以下のようなもがあります。
決済手段として普及する可能性がある
今後、決済手段として普及する可能性があります。
ステーブルコインは法定通貨や価値が比較的安定している金の価格などと連動するよう設計されているため、他の仮想通貨よりもボラティリティがはるかに小さいという特徴があります。
受け取ったとしても、変動が少ないステーブルコインなら法定通貨と同じように受け入れられます。
ステーブルコインを受け入れる企業や店舗が増えれば、一気に普及する可能性があるでしょう。
各国の規制を受ける可能性がある
ステーブルコインは法定通貨と同じ価値を持ち、送金は法定通貨よりはるかに容易で低コストです。
そのため、犯罪資金のマネーロンダリングに悪用されるのではないかという懸念がでています。
こうしたことから、各国がステーブルコインの規制を強化する可能性があります。
実際、2020年9月には欧州委員会が「暗号資産市場規制案」を公表し、法定通貨に連動するステーブルコインの発行を銀行などに限定する方針を示しています。
まとめ
ステーブルコインは法定通貨や金といった安定した資産と結びついているため価格が非常に安定しています。
そのため、売買によって利益を上げる投機の対象としてはふさわしくありません。
しかし、暴落リスクや送金コストが低い点は非常に魅力的です。
ただし、USTのように急落する可能性がありますので、絶対安全といった過信は禁物です。